広島地方裁判所 昭和25年(行)36号 判決
原告 瀬尾静
被告 小奴可村長
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告は「被告が原告に対してした昭和二十五年三月三十一日付同年度農業計画はこれを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として、原告は主要食糧農産物の生産者であるところ、被告は昭和二十五年産主要食糧農産物農業計画に基いて昭和二十五年三月卅一日附書面で原告に対し、同年産米、甘藷、馬鈴薯の農業計画を指示してきたが右農業計画は次の点において違法である。即ち
(一) 食糧確保臨時措置法第五条第二項によれば、農業計画は生産者の意見を徴し同項各号に定める事項を勘案してこれを定めなければならないのに、被告は右計画を定めるに当り生産者である原告の意見を徴していない。
(二) 原告は右計画に対し同年四月七日異議の申立をしたが、これに対して被告は同法第六条第二項の決定をしていない。
(三) 同法第七条第一項により右決定をした後農業計画を生産者に指示すべきであるのに被告は右決定なくして原告にこれを指示した。
以上の理由により原告に指示した右農業計画は違法であるからその取り消しを求めると述べ、なほ右(二)(三)は何れも農業計画を定めた後に発生した事由ではあるが農業計画自体の違法原因となるから、右計画の取り消しを求める本訴請求原因として主張するものであると附陳した。(立証省略)
被告指定代理人は主文同旨の判決を求め答弁として原告が主要食糧農産物の生産者であり、被告が昭和二十五年三月三十一日附書面で原告に対し同年度農業計画を指示したこと、及び原告の異議に対し決定をしていないことは認めるがその余の事実を否認する被告が農業計画を定めるに当つては、直接に右生産者の意見を徴することは不可能なので、毎年二月中に生産者から耕作田畑の異動あるものはその届出をさせることにしており、届出がないものは前年通りの耕作台帳面積及び賃貸価格を考慮して県から指示された生産数量に基き定めているのであつて、これにより意見を徴したことにしていると述べた。(立証省略)
三、理 由
被告が原告に対し昭和二十五年三月三十一日附書面で同年度農業計画を指示したことは当事者間に争ないところ、原告は、右農業計画は前記三点において違法があると主張するので順次判断する。
(一) 生産者の意見を徴したか否か。この点について、被告が直接生産者である原告の意見を徴しなかつたことは、被告の自認するところであるが証人小田福太郎の証言によると従来被告が農業計画を立てるに当つては、県が各町村に割当てた生産数量の基準に従つて耕作台帳により各農地の面積と賃貸価格を基礎として、これに食糧確保臨時措置法第五条第二項所定の各事項を勘案し、実際に各生産者の意見を徴することは事実上不可能であるから耕作田畑に異動があるときは異動届を提出せしめて生産数量を算定し直すこととし、その届出がない者に対しては前年と同一の計画を立てていること及び本件農業計画もその例にならつて立てられたことが認められる。そこで右のような取扱で同法第五条第二項の「生産者の意見を徴し」たことになるかどうかを考えてみると農業計画が毎年定期的に且つ異動の少い農地につきしかも多数の生産者を対象として定められることと、地力、面積、作付等生産の諸条件に比較的変動の少い農業を対象としている点に鑑み、右の規定は必ずしも各生産者から同項所定の各事項につき直接意見を徴することを要せず農地の異動その他につき意見がある生産者にそれを述べさせる機会を与えれば足る趣旨に解すべきであるから、被告が右認定のように直接各生産者から意見を徴することに代え毎年耕作田畑の異動届を提出せしめ、その提出なき者を意見がない者として取り扱つたとしても「生産者の意見を徴し」なかつたことにはならないものと解するのを相当とする。よつてこの点に関する原告の主張は採用できない。
(二)及び(三)の農業計画樹立後の違法について
被告が原告の異議に対し決定せずして本件農業計画を指示したことは当事者間に争がないけれども、かくの如きは計画を立てた後の手続の瑕疵に過ぎず右計画自体の効力に消長はないからこの点に関する原告の主張も理由がない。
よつて原告の本訴請求は失当としてこれを棄却すべきものとし民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 三宅芳郎 浅賀栄 加藤宏)